2020年4月3日金曜日
松川行雄: コロナ収束後株価爆上の可能性~バブル再燃もありうる
松川行雄: コロナ収束後株価爆上の可能性~バブル再燃もありうる
雑誌エコノミスト
3月16日に前週末比2997ドル安の20188ドルと過去最大の下げ幅を記録。2月12日の史上最高値29551ドルから1ヶ月で約30%の大幅下落となった。リーマンショック以降2009年から続いた米国株式の強気相場はひとまず終わったーそう市場は見ていた。しかし2020年3月17日にトランプ政権が現金給付も含めて総額1ドル(約107兆円)を上回る経済対策を米国議会に提案し,21日にはコロナ対策の総額が2兆ドル(約220兆円)に膨らむとの見方を示すと,NYダウは3月24日,一転して前日比2113ドル高の20705ドルと史上最大の上げ幅を記録した。
■リーマンショックとは違う
今回のコロナショックは従来の金融ショックとは異質のものであることが明らかになった。米国連邦準備制度理事会(FRB)は3月3日,米国株急落を受けて緊急利下げを行ったが,NYダウは下落し続けた。理由は今回の経済停滞はリーマンショックのような金融システムの崩壊 ではなく,人の移動制限や工場の稼働停止など実体経済の活動制限にあって,金融政策の及ばない領域の問題だからである。株価がFRBの利上げに反応しないで米国政府の現金給付という実弾に反応したのは,後者が米国の個人消費に直接効いてくるからである。
結局,現在の世界経済停滞は新型コロナの世界的流行が収束しない限り続くだろう。中国では感染者数の増加数が底を打ったとみられる反面,足元ではユーロ圏と米国の拡大が懸念されている。大規模な経済対策も実態経済の落ち込みの速度を緩めるにすぎない。
コロナの収束が不透明な以上,問題はコロナ収束後に世界経済がいつ本格回復するかである。例えば深刻な信用収縮で金融システムが崩壊したリーマンショック以降,ユーロ圏経済の本格回復するまでに6年の時間を必要とした。
ただコロナショックは金融ショックではない。むしろ自然災害に近いとの見方がある。大規模な自然災害だった東日本大震災の時と比較すると,震災では生産物流設備から地域コミュニティにいたるまで広範囲が波に破壊された。被害総額は設備などストックの損失が30兆円,経済活動の基盤が完全に失われたことによる需要減退や機会損失などフローの損失が10~15兆円,合計40~50兆円にのぼるという試算もある。そして震災前後の日経平均株価の動きを見ると,震災の当日2011年3月11日の10254円から翌週3月15日には8605円まで急落した。しかし翌年2012年4月には9800円台と震災前の10月11月とほぼ同じ水準に回復している。
一方今回のコロナショックは生産設備など壊滅したわけでもなく,経済活動も失われたわけではない。工場の稼働停止で供給が止まったことで需要が一時停止を強いられている状態である。米国をはじめ他国の株式市場を長年ウォッチし続けているストラテジスト松川行雄さんは
「生産設備など価値が減滅した震災でも株価は戻った。ましてそうした価値が無傷で残った今回のコロナショックは収束したら株価が倍返しで急反発の可能性が高い」
と話す。
■米国株は買われていなかった
倍返しの理由として松川さんは米国株式市場での捌け口を失っている膨大な「待機資金」の存在を指摘する。コロナショックが深刻化する前に米国株は史上最高値を更新していたが,売買取引高は意外なほど低い「薄商い」であった。実際主な投資額である機関投資家や年金運用機関の過去1年の売買状況を見るとほぼ売り越しているという。そうした中で株価を押し上げていたのは米国企業の「自社株買いブーム」である。その規模も日本とは桁違いで,毎年平均で7000億ドル(70兆円)程度もの自社株買いを行っている。薄商いの中で大量の自社株買いがあると,「市場の投資熱が薄くても簡単に株価が上がる」(松川氏)。つまり米国株式市場は自社株買いだけで史上最高値を取ってきたと言える。
薄商いは米国株を誰も買っていないことを意味する。それを示しているのが安全性の高い公社債などで運用する投資信託 MRF(Money Reserve Fund)の規模である。米国では MRFの残高が日本円で約400兆円に膨らんでいるという。株などの売却で得た資金は自動的にMRFで運用されて,有価証券を購入する際は MRFが売却され購入資金となる。膨れ上がったMRFは「空前の株の待機資金だ」(松川氏)。コロナが収束した場合,捌け口を見つけた400兆円は米国だけではなく世界各国の株式市場に流入する可能性が高い。バブル再燃もあり得る。
ー雑誌エコノミスト,4/15号
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