2020年9月14日月曜日

筒井康隆: 2020年は様々な周期の曲線が 大底で一致する「大当たり( Jackpot )」の年かもしれないなあ......




筒井康隆: 2020年は様々な周期の曲線が 大底で一致する「大当たり( Jackpot )」の年かもしれないなあ......
ー本日はよろしくお願いいたします。まず雑誌 『WIRED』 がアメリカで創刊したのは1993年なのですが,1993年というと筒井先生の近未来小説『パプリカ』発売の年であって,また小説『朝のガスパール』連載のスタートがさらに遡って1991年になりますが,筒井先生の先見性に驚きました。
筒井: いや..それはどうも。
ーその『朝のガスパール』の副読本的な『電脳筒井線』はパソコン通信による読者との交流の記録でした。2008年からウェブサイト『笑犬楼大通り』で『偽文士目録』を更新されていますが,良い意味でも悪い意味でもオープンなインターネットと比べて,当時のパソコン通信のクローズな環境がちょっと懐かしくなったりすることはありますか?
筒井: 『笑犬楼大通り』はまさにクローズな環境。 で作ってもらいましたので,今でも当時のようにファンとの交流はできています。Twitter のアカウントを持っていますが見ている時間がないといいますか,見たらキリがないのでほとんど見ないですね....インターネット自体あまり見ていません。
ーさてここからは新型コロナ禍についてお聞きできればと思います。
■本が売れている
筒井: コロナといえば昔「コロナ」というタバコがあったんです。昭和21年から昭和22年にかけてほんの1年ほど発売されただけなんですけれども...あるあのタバコは箱を見たらやっぱり金環蝕のデザインでした。ただ吸ったことはありません。当時私まだ13歳でタバコを吸い始めるのはその3~4年後のことですから......吸っていたらいい免疫になっていたのかもしれない。とにかく長年の喫煙習慣のせいでちょっと肺気腫の傾向がありまして。今回の新型コロナウイルスは怖いんですよ...だからずっと家にいます。
ーコロナの流れで書籍が売れていますね。
筒井: 昔から不況になると本が売れると言われていましたが。だいぶ前から不況になっても本が売れなくなりました。構造不況というやつです。好況不況関係なく本は売れなくなってしまいました。ところが今回は皆使用なしに家にいなければならないので本を読み始めました。ありがたいことだと思います。
最近カミュの『ペスト』が売れているようですがそれと別にロビンソンクルーソーの作者ダニエルデフォーも『ペスト』という作品も書いています。
それによりますと,ペストが流行った時も,都市を脱出するか食料品を買い込んで家にこもるかで,結局金持ちが生き延びたそうです。なんだか今回と似ていますね....示唆的ですね。
売れているといえば小松左京の『復活の日』も再び脚光を浴びているようです。今回は『復活の日』で描かれるような人類滅亡の危機にはならなさそうですが。小松さんだってまさか現実にこうなるとは想像してなかったと思います。小松さんが生きていたら今の状況についてどう言うでしょう?

ー平時ではなくて現在のような有事における物語の役割についてお考えを聞かせてください。
筒井: 段々社会生活や労働というものが今までと同様には捉えられないことが分かってきました。それが分かったところですでに遅いのかもしれませんが.....少なくても小説には「現状」と「これからの参考になる」 点があります。カミュの小説『ペスト』に「それは自宅への流刑であった」という一節がありますが。これは今のステイホームに通じる感覚ですね。小説は何で今まで他の伝染病に対してこういう予測ができなかったのか?とは思います。
■大当たりの年
ー先生がコロナに触発されて物語書くとしたらどんなアイデアがトリガーになりそうですか ?
筒井: 思い出したのは『大当たりの年( The Year of Jackpot )』というロバートハインラインの短編です。統計分析が得意な主人公が様々な周期の曲線が 大底で一致する「大当たり( Jackpot )」の年がやってくることに気がつくという,統計学的な架空の理論を基にしたペシミスティックな SF小説なんですが。それと同じで,コロナがどんどん悪くなるわ,北朝鮮は不安定になるわ,アフリカでバッタが大量発生してアジアにまで飛んでくるわ,指導者までがおかしくなって,トランプさんが「消毒液を注射したらいいんじゃないか?」と言いだすわ......といったこと考えると,今年は大底で一致する「大当たり( Jackpot )」の年ではないか?と思っています。だからもし自分が感染した場合85歳の後期高齢者で85歳の後期高齢者でしかも肺気腫の傾向もあるので,一番先にトリアージという(笑)
ー笑い事じゃないです.......(苦笑)  ジャックポットにあたる年として,その様相を筒井先生がお書きになるとしたら,やはり小ネタを積み上げながら編んでいくイメージでしょうか?
筒井: この騒ぎのことを小説家の誰かが書かなければいけないと思いますね。ただ一人の主人公が出てきてどうのこうのという物語ではなくて,この騒ぎそのものを半ば記録として,半ば小説として書かれた作品があってもいいのではないかと思います。それは私が書こうと思います。この騒ぎのつまらないディテールまで覚えている人があまりいないのは困るので,そういうことを誰でも読める小説にして書き残しておきたいという気持ちはあります。遺言という意味合いでもね。~
ー最後にこの質問を。過去にタイムリープできるとしたらどの時代を選びますか?
筒井: 私はやっぱり昭和初期。浅草の喜劇が全盛の頃でしょうね。関東大震災の直後になるのかな。エノケン一座にいた高清子さんを生で見てみたいな。戦争は二度と嫌だから戦争が始まる前にはこっちへ帰って来たいけれども....
ーもう一つ。ご自身の作品に登場した様々なガジェットや設定の中で「これが実現したら嬉しい」というものはありますか?
筒井: なんでしょうね....面白いものばかり書いているわけだから。周りにしてみたらありがたくないものばかりでしょうね.....それこそ『パプリカ』の 「DCミニ」とか実現したら騒ぎが起こるものばかりですから。
ー雑誌『WIRED』2020年9月号

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